緑がきっかけをくれる!建築物と地方創生に「植物」ができること
2021年7月31日 第四回目となる【きっかけ創造大学】が総合建設会社「SAWAMURA」本社で開催された。
世界で活躍するプラントハンターの西畠氏を迎え、建築物と地方創生に「植物」ができることをテーマに、様々な話が飛び出した。ワークショップ参加者には近江高島駅のグリーン計画の課題が出され、優秀賞の方の計画をもとにSAWAMURAが実際に近江高島駅をプロデュースする可能性も?!9月下旬にSAWAMURA ホームページにて発表予定だ。
参加者・開催者の双方にとっての“きっかけ”をつくるイベント
BEAMSの土井地 博さん、面白法人カヤック の田中彬士さん、『日本一おかしな公務員』著者である山田崇さん。滋賀県の小さな城下町に各業界トップレベルの講師を招き、ワークショップなどを行うイベント。それが、「きっかけ創造大学」だ。
主催しているのは、琵琶湖西北の高島にある総合建設会社・株式会社SAWAMURA。「地方創生」のテーマのもと、主に大学生が参加しており、現在まで全4回開催している。
そのイベント名のとおり、参加者全員にとって「きっかけ」を創造することを特徴とする今イベント。地元高島から県内外の人同士のつながりをつくるコミュニケーションの場を設計し、“地方創生”を主軸としたあらゆる成長のきっかけづくりをおこなっている。
地域にいかに貢献していくか。どのように地域とともに一緒に成長していくか。地元のトップブランド企業としてSAWAMURAが行うイベントの、今回は第4回のレポートだ。
植物には、価値をアップさせる力がある
世界中をまわって様々な植物に出会い、現地の人の話を聞いて運び、クライアントに植物を提供している西畠さん。英王室などのVIPが主催する仕事を手掛ける一方で地域密着型の仕事も多く受けており、現在も90ほどのプロジェクトを抱えている。仕事を受けるか受けないかで一番考えるのは、「どんなおもしろい花が咲きそうか」の一点だと言う。
「僕は世界中の植物を愛してきた。だからこそ何をやるにしても、なんでそれをやるのか、どうして植物を使うのかを常に考えている。その場所ならではのストーリーやもともとあるものに磨きをかけ、植物に落とし込み、美化していく。植物には、施設や場所の魅力を見つけ出し、アップさせるチカラがあるんです。」
西畠さんが地方創生に植物が有用だと考える理由のひとつに、「コミュニケーションツールとしての植物のチカラ」がある。建物といったハードと私たちをつなぐ役割を持ち、四季の移ろいを教えてくれる植物はまた、人と人との距離を縮めるツールにもなると、西畠さんは身を持って体験してきた。
「国際的なパーティーなどをプロデュースする機会も多いのですが、『植物が好き』『キレイ』と感じる気持ちは、年齢、地元、人種、職種、宗教など関係ない。植物を好きという感覚は、人種も宗教も超えてわかりあえるものなんです。」
人が集まるところに、価値は生まれる。植物をいいと思う気持ちが人間にある限り、植物は施設価値や不動産価値を上げることができるのだ。
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西畠さんときっかけのストーリー
僕は今40歳で、過去に3回セミナーに出たことがある。そのひとつが、下着を扱っているピーチジョンという会社のセミナー。僕は植木屋さんだから、「下着と植木、どれだけ関係あるの」と思ってたんだけど、セミナーが終わったあと「これは仕事のやり方変えなあかん」と思った。そのセミナーではただ一言、「おどろきがないとお客様は逃げていく」とだけメモをしたの。いまだにこの言葉には影響されている。当時20代後半で、その1時間半は僕の大きな“きっかけ”になった。どこかへほんの一歩踏み込むことが、人生にとって大きい意味を持つことがあると、僕は体験しているんです。きっかけはとても大切で、どこに落ちているかわからない。SAWAMURAさんは、このご機嫌斜めな世の中でぐんぐん業績を伸ばし、ただ仕事をとるだけでなく、きっかけの種をまいているのがすばらしいよね。だから今回のこの僕の話も、もしかしたら皆さんのきっかけになるかもしれないと、そう思っている。
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<works>
代々木VILLAGE by kurkku 2012-2020
小林武史氏がプロデュースした商業施設の屋外空間を担当。「共存」をテーマに、国境というボーダーを超えて世界各国の植物が一同に集まり、東京都心で仲良く暮らす植栽計画を実現。グリーンの価値に建築のプロをはじめとした多くの人々が気付く転換となり、その後の都市緑化に大きな影響を与えた。
Centrepoint 50th Anniversary 2019
ウィリアム英国王子がパトロンを務めるホームレス支援団体の50周年を記念したチャリティーイベントにおける植物装飾のプロデュース。パーティー会場の空中全体に緑が潤うような大胆なイメージを立案。現地のオペラの会場制作チームと協業し世界中から集まったVIPをもてなし、大きな評価を得た。
<植物をフックに地域や建物をプロデュースしよう>
SAWAMURA本社の様子。一階に執務室、エントランスから二階にあがる。二階の憩いのスペースを抜け、そして一番奥に今回の会場である会議室がある。
SAWAMURAは、スタッフがこの3年で倍近くとなった。結果、オフィスが手狭になってきたので、今イベント会場である本社会議室もオフィスにしようという計画がある。
そこで、西畠さんならばどうこの会議室をオフィス化するのかを考えていただいた。
ー西畠さんのオフィスグリーン計画!ー
「フォレストルーム」を出現させる
「実は、樹木の割合が増えるにつれてストレス軽減効果が高まることが科学的に実証されています。さらに、植物が多いと自殺率が減ったり、病気の治りが早かったり、集中力が増したりと、びっくりするようなエビデンスも。オフィスに植物を取り入れると、情緒的に『グリーンっていいよね!』だけではなく、実際に生産性が上がってくることが期待されているんです。」
「せっかくグリーンショップを持ってるSAWAMURAさんですから、オフィスにグリーンを取り入れるのはすごくいいと思います。そこで、コワーキングスペースのような、ちょっと一人になりたいときに使えるテレワークユニットのような場所にするのはどうでしょう。ここは集中する場所、ここはみんなの場所、といったように、場所の特性によってゾーニングするやり方です。この会社全体のなかでもここは集中するゾーンにして、森みたいに植物でわしゃわしゃにするんです。観葉植物にパーテーションのような役割を持たせて自然とソーシャルディスタンスをつくり、心理的にも集中できるスペースに。アクリル板、カーテン、板の向こうではなく、植物はとてもちょうどいい距離を生み出してくれる。森のなかで静かに集中するような・・・。うん、これを“フォレストルーム”と呼びましょう。名前をつけると、その場所が性格を持って、人格を持ってくるんです。
観葉植物のいいところは、『やっぱり会議室必要!』となったときに、また持ち出せること。なおかつ、オフィスも手掛けるSAWAMURAが『うちのオフィスこうなんです。どうですか?』とイメージを販売できる場所にもなる。一石四鳥くらいになりますね。」
ー植物をフックに地域や建物をプロデュースしようー
西畠さんが「学生寮の植栽計画」を企画するとしたら?
現在、某大学の学生寮の設計と施工を手掛けているSAWAMURA。高低差のある地域のため、一棟一棟段差がある場所に建築を予定している。道向かいにあり、さらに段差もある全5棟の学生寮。これらに統一性を持たせ、学生たちのクリエイティビティも刺激し、地域にも愛される共用部分実現のための植栽計画を、西畠さんに考えて頂いた。
ー西畠さんの学生寮計画!ー
「植物で、大学や地域への愛着を表す」
「まず、限られた予算のなかで、予算を共有部に集中させたいというのはすばらしいことだと思います。
そのうえで、5棟あるから、たとえばここはアザレア、ここはメイプル、ケヤキ、紅葉、白樺、桜、といった名前をつけて、それにのっとった植栽を各棟に施していくのは、ベタですがいい方法です。将来的に卒業生が『わたしも昔、カエデ棟にいたのよー』なんていう、時間を超えた交流にもなるかもしれませんね。
もうひとつは、各棟の間にいろいろ建物があって全部がくっついてないから、この植栽をみたら『これは〇〇大学の学生寮だ』とわかるように、全部同じ植栽計画でやるのも手です。広い地域のなかで自分たちのゾーンを確保するんです。
どんな方法にせよ、限られたスペースですから、その木が最大で何メートルになるかは重要です。植物は“経年優化”(三井不動産レジデンシャルが掲げる概念)。時を経るにつれて価値が増えていくんですよ。
あとは、地域を調査して、まわりにどんな木が育っているのかは見た方がいいですね。八重桜がこのへんは多いなとか、白樺を植えている家があるなとか、山の方をみるとどんぐり系の木がたくさん生えてるなとか。調査してデータ化すると、まわりの景色に溶け込みやすいものができる。地域も大事にしながら育つ実績のある植物をみつけることができます。」
Q 学生さんたちから西畠さんに質問!
― 難しい案件はどんな案件?
この仕事は絶対的な答えのないものに向かっていき、つくりあげていく作業。だから、判断する人が多すぎたり、意思をもった人がたくさん発注者側にいると、まとめるのが大変!大きい仕事だけじゃなくても、父ちゃんと母ちゃんで意見が違う、工場長がいいけど現場は違う、とか。そういうのは困ることが多いね。でもそうやって場所づくり・ものづくりはかたちにしていくんだ。
― 失敗したと思ったことはありますか?
プレゼンをするときに、打ち合わせに入った瞬間に「今日は難しそう」と思うことがときどきある。そういう「なんとかひっくり返さねば」というときに空気を凌駕することは結構得意なんだけど、できなかったことが一回あったなあと、思い出したよ。言い方は悪いけど、大きな会社をあやつってみせる!くらいの気持ちと実力で誘導するのも必要なことだよね。
― 大学で建築の勉強をしているのですが、どうしても植栽の配置は設計などのあとまわしになってしまいます。建築との共存はどう意識をして植栽配置をしていますか?
今、世界でトップクラスのホテルや施設をつくるときは、その土地の景観や環境に配慮することが絶対的な主流になっている。そういうビッグプロジェクトの場合、大体最初にコンサルタントという人たちを雇うんです。そこに僕みたいに植物を扱う人間が入ると、「これは二次林だから伐採しても大丈夫ですよ」とか、「この木は活かした方がいいですね」とアドバイスができる。建物を建てて、あとから植栽を考えようではなく、100年前はここはどうだったのかといったことをプロジェクトチームに投げ込むことができるんです。だから、そうやって環境への配慮を超えてよりよいものをつくるために好転させていく共存は、とてもいいことだと思っています。
― 建物が設計される前の段階で緑の空間をデザインすることはよくありますか?
今でもほとんどの仕事は、建物ができてから出番になることが多い。でも最近、基本構想の段階からチームに入ることが増えてきている。「こういう大地があり、こういう建物を建てたい」ということに立案から関わることが多くなってますが、割合はまだまだですね。大学の課題とか卒業制作で、まわりの環境を調査してからそこにフィットしてさらによくする建築を考えたら、絶対「いいね!」と言われると思うよ。
― 植物と生きていこうと決めたきっかけや、海外の植物に魅力を感じたきっかけはなんですか?
家業が代々植物の問屋さんをやっていて、でも、実際に植物を扱い始めたのは、ちょうど皆さんと同じくらい、21歳のときからだった。桜と梅の区別もつかず、パンジーがぎりぎりわかるくらい。それで何をしたかというと、時間さえあればできるだけ安いチケットで旅をした。いろんな国にいっていろんな植物を見た。そしたら、魔法にかかったみたいに植物が好きになっちゃったの。動物園でこどもたちがライオンやキリンをみて「すごい!」と思うの同じで、身近な犬とか猫じゃなくて、海外の見たこともない不思議な植物に魅了されたんです。でもそれを見れば見るほど、身近にある日本の草花や樹木にすごく興味がわくようになって、今は国境関係なく好きになった。
でも、どんな植物もだいたい気軽にワンクリックで買える時代だからこそ、そのワンクリックで手にできないものを提供できる人間になりたいなあと思って、それで海外の植物を多めに扱うようになった。
<参加者への課題>
【 近江高島駅のグリーン計画をイメージしてみよう 】
もともと高島市とアイルランドが交流していたことから建てられた巨大なガリバー像。そしてこの像の反対側にあるのが、JR近江高島駅だ。SAWAMURA高島本社の玄関口であるこの駅を、グリーンを使ってプロデュースするとしたらどんな計画が立てられるだろうか。
近江高島にはお城があり、一帯はもともと2万石の城下町だった。琵琶湖の水運・物流が盛んで、とても栄えた街。しかし現在は残念ながら、そんな当時と比べて活気は減ってしまっているのが現状だ。
それでも、朝晩は利用者がいるこの駅。駅から150mの場所に城跡もあることから、街のエッジとして盛り上げたいとSAWAMURAは考えている。
グリーンをフックとした「地方創生」を、実際に自分がするとしたら?
参加者に出された課題は「JR近江高島駅」だ。
優秀賞の方には、西畠さんより「砂漠のバラ」と呼ばれる、中東の植物をプレゼント。さらに、その計画をもとにSAWAMURAが実際に近江高島駅をプロデュースする可能性も!?
優秀賞は9月下旬にSAWAMURAホームページで発表を行う予定だ。
本件に関する問い合わせ先
株式会社澤村(SAWAMURA) ブランド推進室 和田 TEL 077-572-3879