SAWAMURA高島本社に、ワークプレイスデザインの第一人者である仲隆介先生がお越しくださいました。
仲先生は、働き方と働く場について研究しつつ、ワークショップを用いる独自の手法でさまざまな企業のオフィス作りをお手伝いされています。
まずは仲先生に本社をぐるりと見ていただいた後、澤村社長と対談しました。
「より良いオフィスとは?」「これからの働き方とは?」等、たっぷり語り合った内容を、3回に分けてお伝えします。
この記事を書いた人
三宅香帆 |
目次
なぜSAWAMURAはオフィスの改装に踏み切ったのか?
いいオフィスの条件は、「対等なコミュニケーション」
三代目社長がビジネスモデルの変革に踏み切った理由
仲隆介さん
京都工芸繊維大学名誉教授。働く場所と働き方の関係をテーマに研究。滋賀県の琵琶湖のほとりに「生きる場プロジェクト」を立ち上げ、自身の理想のワークプレイスを実践している。
澤村:本日は高島までおいでくださり、ありがとうございます。一通り説明させていただいたのですが、仲先生がご覧になってみて、うちのオフィスはどうでしょうか。
仲:オフィスの建物も素敵ですが、僕はそれ以上にソフトの部分に感動しました。というのも正直「こんなにきれいなオフィスです」と箱の部分だけ見せられても、あんまり評価できないんですよ。そのオフィスでみんながどれくらい活気をもって仕事をしてるか、が一番の評価ポイントですから。だからこんなふうにちょっとざわざわしていて、皆さんが気軽にコミュニケーションを取っている様子が見えると、すごく良いなと思います。
澤村:ありがとうございます。さまざまなオフィスを見ている仲先生にそう言ってもらえると嬉しいです。
仲:私がオフィスの専門家として携わったなかでも、中小企業の方は「オフィスの環境を改善することによるスケールメリットがない」と仰ることがとても多い。オフィスにこんなにお金をかけられない、大企業と一緒にしないでくれ、と。もちろん、目の前の仕事を回すだけで大変で、オフィス環境のことまで考えられないという声は分かるのですが。
でも今日はSAWAMURAさんのような地方の中小企業で、きちんとオフィスにお金と手間をかけてらっしゃる事例を見られた。とても嬉しいです。
大企業でなくともオフィスのことをしっかり考えられている会社がある。それが分かっただけでも、今日来て本当によかったと思いました。
澤村:対談はこれからですが(笑)、ありがとうございます。でも私も経営者としてはオフィスへの投資がリスクになる感覚は、すごく分かります。私はリスクを取ってよかったなと思っていますが、オフィスが生産性に繋がるかどうかって不確実なんですよね。
仲:「オフィスを変えたら、会社が変わる」という発想に、多くの経営者は至らないのです。オフィスに巨額のお金を投資しても、リターンがある保証がないから。日本の企業は、投資へのリターンが確定していることにしか投資しないのが普通なんですよ。社風を変える、部門の関係性を変える、そういうソフトが売り上げに直結する意識があまりない。
だからこそSAWAMURAさんの判断がすごく良いなと思います。不確実なソフト面にもきちんと投資をしたんですね。
澤村:……実は、オフィスへの投資は、結果論だったんです。私が社長になって今のオフィスを作る時、最初はすごく普通の綺麗な会社の案ができました。部長や課長の席をいくつ作る、個室がとにかくほしい、そんな要望に応えた、ヒエラルキーがきちんとある普通のオフィス案です。でもその案を見たとき、強烈な違和感があったんです。
「本当にうちが目指していきたい会社はこれなのか?」と。
だからその案が決まる一歩手前の時に、「もう三か月欲しい」と言って、案をひっくり返させていただいたんです。
仲:すごい、ゼロからやり直し!
澤村:そうしてひっくり返した後、若い人を集めて「うちの会社はどんな会社やと思う?」とヒアリングを始めたんです。会社の強みを活かした、新しいオフィスを作り直すために。
すると「ヒエラルキーはいらない」「2階は多様性を重視する」といった意見が出てきて、今のオフィスができました。オフィスに投資したタイミングは、会社にとって大きな転換点でしたね。
仲:オフィスへ投資しようという判断はどこから?
澤村:自社らしさをどこで作っていくか、を考えた結果でした。もちろん全国的に見れば、成功した同業の中小企業は既にあった。でもそういう企業のビジネスモデルの真似をして、同じことをやればうまくいくか? ――それではどこかに歪みが出そうだと思ったんです。
だとすれば、自社らしさを価値にしていく必要があります。そのために社員がどういう人間かを理解するべきだし、さらに社員とコミュニケーションを取れる状態をつくるオフィスを作ることは必須条件でした。
仲:若いうちに三代目としてSAWAMURAの会社を継がれて、オフィスの改革に踏み切ったわけですよね。意地悪な質問かもしれませんが(笑)、上の世代から反発はありませんでしたか?
澤村:むしろ僕より年上の方がすごく応援してくれたんですよ。
というのも親父が亡くなって、僕が社長になったタイミングが、リーマンショックの時期で。急に不景気が来て、世の中全部大変になってしまった。「大変や」「若い子を応援していかなあかん」という雰囲気にならざるを得なくなったんだと思います。もう、みんなで走らな無理や、と。
仲:ああ、それは社員さんがすごく偉いですね。僕たち昭和のおじさんの世代は、「年寄りの言うことを聞くべき」という価値観がすごく強かった。でもそれは、世の中が右肩上がりで、やるべきことが明確だったからです。将来が見通せる時代は、軍隊型の組織で上の言うことを聞かせる必要がありました。
でも20~30年ぐらい前から世の中の仕組みが変わってきた。言われたことだけやればいい時代じゃない。こんなに海外からアイデアがやってくる時代に、ただいいものを作っていても通用しないですよ。いいものをつくったうえで、その商品にどんな付加価値があるか、世の中にどう受け入れてもらうかを考えなくてはいけない。
そんな時におじさんが上から威圧して邪魔しちゃダメです。みんな色々意見を出し合っている時「こんなこと言ったら怒られるかな」「これ部長嫌いだよな」とか思っている人は、どうしたっていいアイデアは出ないですよ。
澤村:年上の世代が威圧してしまうと、若い世代はもう爪を隠し始めますよね。気配を消してしまうというか……コミュニケーションが取れなくなる。
仲:日本は若い人にもっと任せる風土がなきゃいけない。とにかく上の世代が変わらないと。
澤村:そういう意味ではうちの会社のフラットな空気は、ありがたかったですね。私自身若かった時、オフィスの改装案を「もう一度考え直そう」なんて、普段から対等なコミュニケーションを取れている仲じゃないと言いづらかった。角を立てないことを重視するのではなく、リスクを取ってでも言うべきことを言える――そんな関係が会社の理想です。
仲:昔、いいオフィスの条件を調査したのですが、やっぱりコミュニケーション、つまり社員同士の相互作用が頻繁に起きていることだったんです。
活気のあるオフィスの必須条件は、対等なコミュニケーション。
みんなもっと「対等さこそが仕事のやりやすさに繋がる」ということを理解できるといいですね。僕らの世代はなかなかそこが難しいですけれど。
澤村:年齢だけでなく、さまざまな立場の対等さは、会社にとってすごく大切ですよね。
仲:SAWAMURAさんは、部門間も対等にコミュニケーションを取れそうなところが良いですよね。どうしても建築会社だと施工が儲かるから、設計部門が施工部門の言いなりになっちゃうような会社もしばしばあるのですが。
澤村:単純に、部門間が対等なほうが、仕事がやりやすいんですよ。たとえば、コーディネーターと設計士の仕事の分担はけっこう難しい。お互い重なるところがありますから。建築会社では「その部分が設計士の醍醐味なのに、コーディネーターに取られたくない!」とかあるあるなんです。でもうちは「部署同士が共同することでいい仕事ができるのが理想だね」とよく話しています。仕事の分担ひとつとっても、納得感があると、仕事は進みやすい。だからこそ部署を超えて、齟齬なく納得できるコミュニケーションを育むことが必要なんだ、といつも言ってます。
仲:先ほど伺った話だと、SAWAMURAさんは社長さんが代替わりされて、オフィスだけでなく、徐々にビジネスモデルまで変えていったんですよね?
澤村:あるタイミングから、お客さんの「とにかく安く作ってください」という言葉に応えるだけではだめだ、と思うようになりました。うちの建築が持つ付加価値を分かってもらうことが大切なんだと。
なので、安さではなく、付加価値を買っていただけるお客さんを増やすことを目指し始めたんです。結果的にそれがうまくいって余裕が出てオフィスの投資に回すお金が生まれたのですが。
仲:すばらしい。以前は施工のみを担当する会社だったんですよね? 付加価値をつけるにはどうしたんですか?
澤村:具体的には、施工だけではなく、設計から施工まですべて請け負うようにしました。以前は、総合病院や学校をゼネコンとして施工するのが大半の仕事でした。外部の建築士さんがいらっしゃると、安くするんでやらせてくださいと言うしかない。でもほとんど若気の至りで「顧客に一番身近な立場で、設計から施工まで提案するほうが面白いのでは?」と思い切り、設計から担当する会社に変革しました。
仲:設計部門は新しく作ったんですか?
澤村:実は昔から社内に設計士がいたんです。SAWAMURAって、実は創業者が設計士なんですよ。そのDNAが残っていて、僕が継ぐ前から社内に設計士がいたり住宅部門があったり、自社で建築を提案する素地はありました。親父は割とアイデア気質だったので、設計を伸ばしたいという思いはあったんじゃないかなと思うのですが……でも全然売り上げはなかった。
でも、私が継いで設計施工をやるようになった時、「SAWAMURA創業者は設計士やったから、うちは設計施工をやる会社なんや」というとみんな割と納得してくれました(笑)
仲:仕事を切り分けるのではなく、全部引き受けるのは、とてもいいことですねえ。もちろん大人数でやるなら分業して役割分担したほうが効率はいい。でも本当に価値あるものを作ろうとすると、全部引き受けるのがいいんじゃないか、と僕はいつも思います。
澤村:実は私たちとしても、設計から施工まで全て請け負ったほうが、価格を安く抑えられたことが何件もあったんです。それに昔のような、とにかく安ければ仕事をもらえる状況ではいつまでも対等になれない。顧客ともコミュニケーションをしっかり取れる状態を作り、顧客ロイヤリティを高めて「ぼったくりません」という信頼を作り上げる。その価値を作ることが必要ですよね。
仲:今はもう、建設だけしてれば儲かるような時代じゃない。いいものをつくるだけでなく、付加価値をつくる風土が必要です。そのためには日本の会社みんながSAWAMURAさんのように、コミュニケーションのあり方を変えて、時代に合わせた成長を遂げていかなくてはいけない。
澤村:私自身いきなり代替わりして苦労しましたので、同じような苦しみを抱える中小企業の事業継承者の方に対して、今後うちの事例がお役に立てないかなと思っていて。実は、「コミュニケーションを取れるオフィス作り」を提案したいんです。中小企業に向けて、ただオフィスを作るのではなく、ワークショップも含めてオフィスデザインの提案をできないか? と最近考えていて。
今日、仲先生にオフィス作りのためのワークショップについてお伺いしたいことがあったんです……!
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SAWAMURAのオフィス改装、そしてビジネスモデル変革の裏側にある社長の熱い思いを、仲先生も熱く受け止めてくれた対談でした。
次回の記事では、仲先生に「オフィスづくりに役立つワークショップのコツ」について伺います。ワークショップを駆使したオフィス作りを実践される仲先生の口から飛び出たのは……最初「オフィスづくりなんて総務の仕事だろ」「これは俺らの仕事の範囲じゃない」と言われたことがある、という驚きの経験。
オフィス作りに前向きでない社員を、仲先生はどうやって変化させたのか?
企業のオフィス作りにおいて、なぜ社員同士のワークショップが有効なのか?
ふたりの対談、次回もぜひ読んでいただけると嬉しいです!
Interview&Text:三宅香帆