SAWAMURA高島本社に、ワークプレイスデザインの第一人者である仲隆介先生がお越しくださいました。
第1回では、会社にとって対等なコミュニケーションがいかに大切か、を澤村社長と仲先生が話し合いました。
そこで澤村社長が、いいオフィス作りにとって必要な「ワークショップ」のコツについて、仲先生にお伺いしました。
会社でワークショップをおこなう意味は?いいワークショップはどうすれば作ることができるのか? 第2回は、仲先生のワークショップ技術をお伝えします。
目次
なぜ今、企業で「ワークショップ」が注目されるのか?
オフィス軽視を変える難しさ
オフィス作りのためのワークショップのコツ
コミュニケーションが取れるオフィスとは?
澤村:日本の中小企業の多くが、今ちょうど事業継承の時期に差し掛かっています。さまざまな中小企業の方のお話を伺っていると、「社内でどうやってコミュニケーションをとっていくか」が大きな課題になっているんです。
コミュニケーションの手段としてのワークショップ型研修は、中小企業こそ取り入れてほしいなと思いますし、実際に注目度もすごく高いなと感じます。
たとえば「SAWAMURAで経営方針発表会をワークショップにしました」という話をすると、「どういうことをやったんですか?」と興味を持ってもらいやすいんです。正直どんな建築を作っているのかよりも、顧客からはるかに興味を持たれる。
仲:経営方針発表会なんて、社長がスピーチするだけで終わるのが普通なのに!ワークショップにするんですね!
澤村:会社の魅力はどこなのか、ワークショップ形式にして社員同士で共有したんです。ちなみに一番共感を集めた会社の魅力は「五目炒飯」という言葉でした。それぞれ異なる個人が混ざり合って初めてひとつの味が生まれること、それがうちの企業としての強みや、と。このビジョンにみんなが共感してくれたんですね。(全社員で「書き初め」。一方通行の方針発表会をワークショップ型に転換した理由に迫る)
仲:ああいいですねえ、面白い。
澤村:会社がワークショップに取り組み始めたきっかけは、組織課題ゆえだったんです。「社内のコミュニケーションをもっと増やしたい」「もっと会議で創造的なアイデアが出るようにしたい」という課題からワークショップ型の研修を始めました。でも仲先生の実践されていることを見ていると、ワークショップこそがオフィス作りに必要なものではないか、と思うようになりました。
先生はオフィスデザインの研究者でもあり実践者でもありますが、なぜオフィス作りの過程でワークショップを取り入れ始めたのでしょうか?
仲:オフィス作りには昔から関わっていたのですが、「立派な箱を作っても、働き方が変わってなかったら意味ないな」と心底感じていたんです。立派なオフィスに改装しても、机に書類が山積みになっていたり、その書類が隣の人とのコミュニケーションを阻害していたりしているのを見て……これじゃオフィスを改装しても意味がない、と思いました。
だからこそワークショップを通して、どういうふうに働きたいか、その会社の理想の働き方をみんなで導き出す。そしてその働き方に沿ったオフィスを作る。この順番が重要なんです。
働き方の理想なく設計すると、逆に使いづらいオフィスになってしまう。いくら新しくても、理想の働き方を考えていないオフィスは、働き方を変えることはないのです。
澤村:だから、みんなで働き方を考えるワークショップを開催されているんですね。
オフィスを考える時も、設計士が図面を引くより前に、コーディネーターやディレクターが顧客と話し合いながら「こういう働き方がしたいから、この箱が必要で、この机が必要で」という順序でオフィスを考えるべきではないか、と私も最近考えています。まず箱ありきの枠組みを変えられたら、オフィスのあり方が広がるのではないかと。
仲:日本は賃貸ビルが多いので、まさに箱ありきでオフィスを考える人がすごく多い。でも本当は、働き方が最初に来るべきですよね。
成果は働き方で決まる、と僕は本気で信じているんです。たとえば東大生は頭がいいんじゃなくて、勉強の仕方が上手いんだと思っている。それと同じで、働き方が下手だと、生産性は上がらない。モチベーションを上げる仕組みを作る、働きやすい環境をつくる、ということが本気で重要だと思っています。
澤村:先生のお仕事のなかでは、大企業のオフィスをまるごと変えるようなプロジェクトもありますよね。うちみたいな中小企業ではなく、人数が多く世代もさまざまな大企業でもやっぱりワークショップをおこなっているんですか?
仲:「全部署から2、3人ずつ集めて理想の働き方を考えるワークショップをしましょう」と言うと、最初はぽかんとされます(笑)
大企業でワークショップをやろうとすると、なにしろ皆さん通常業務で忙しい。「オフィスづくりなんて総務の仕事だろ」「なんで総務の仕事を手伝わなきゃいけないんだ」「これは俺らの仕事の範囲じゃない」と文句が出てくることがほとんどです。
でも少しずつやっていくうちに「ただオフィスを綺麗にするだけじゃ意味ないんだ」「ソフトから作り替えなきゃダメなんだ」という価値観が見えてくる。そこでやっと皆さんオフィス作りに対してやる気になる。ここまで1年かかったりします。
澤村:そんなに時間がかかるんですね。
仲:大きい企業や役所は、ひとりひとりの仕事が明確に定義されている。だからこそ、自分が責任を取れない仕事に手を出してはいけない、とみんな思い込んでるんです。でも働き方って、みんなのものだから。本当はみんなでワークショップをするのが一番いいんです。なかなか最初は理解されませんが。
澤村:やっぱり最初は皆さんワークショップというものに身構えてしまう。
仲:最近、ある市役所の働き方を考えるプロジェクトに携わっていたのですが……依頼してくれた若いやる気のある女性に、部長さんが怒鳴っていたんです。「なに勝手なことやってるんだ、なんでお前に新しい働き方なんか考えられるんだ!?」と。
だけど、きっと部長さんからすると「若い連中が変なことをやり始めたんだから、これは止めなきゃいけない」という思いでいっぱいなんですよね。悪気があって怒っているわけではない。そういう、自分の価値観に閉じこもっている人はわりと多いのです。
澤村:そういう方は、どう説得されるんですか?
仲:荒療治ですが、ワークショップを通して変革したオフィスに連れて行き、担当者に会わせました。同じような市役所へ。すると担当者が、「これからオフィスを作るのですか!いいですねえ、羨ましいな」と言うんですよ。
なにより、同じ苦労をしている方がいるでしょう。オフィスを変革した同業者の話を聞くと、意識が変わるんです。「面倒なことをやらされる」という意識から、「楽しくて重要な仕事をするんだ」という意識に変わっていく。やっぱり外から来た僕みたいな人間が説得するより、同じような立場の人間が成功体験を語ってくれるほうがスムーズなんですよ。
仲:ワークショップの良いところは、人と一緒に考えるところ。ワークショップを通してみんな「あ、そういう風に考えるんだ」「そんな発想やっちゃっていいんだ」と自分の思考の枠を超えられます。
働き方に対して、最初はいい加減なことを言ってはいけないと苛立っていた人が、他人と意見交換するなかで、どんどん自分の枠組みを超えるようになったりするんです。
ルールを守らなきゃいけないと思っていた人が、「働き方にルールはないんだ、自分たちでルールは決めるものなんだ」と思えるようになる。そのためには、他人とコミュニケーションしながら考えるワークショップが一番手っ取り早い。
澤村:私たちも、中小企業に働き方のワークショップも含めて提案できる流れをつくっていきたいです。大企業はすでに働き方も含めたオフィス提案をできる方はいらっしゃいますが、今のところ中小企業ってなかなか働き方まで手が回っていないのが現状。
でも実は、中小企業こそ本当はオフィスが経営に与えるインパクトがすごく大きいはず。変わることに対してスピード感をもっていけるはずなんです。
仲:オフィスづくりは、なかなか直接的な因果関係を証明することができません。そもそも、「生産性はどうしたら上がるのか?」という問いが、いまだに世界の研究者で誰も答えを出していない難題なんです。そんな不確実な中で、生産性を上げるためにオフィスへ投資するリスクを負えるかどうか……中小企業だと尚更、決断は難しいでしょう。
でもワークショップを通して、意見を出し合えたら、それだけで全然違ってきますよね。
澤村:自分自身の経験からもそう思います。オフィス作りのためのワークショップ開催のコツなどはありますか?
仲:いつでも共通して大切なのは、「ワークショップに参加してもらう人の人選」と、「ワークショップのお題の作り方」ですね。そこがうまくいかないと機能しない。
澤村:人選ですか。
仲:たとえば否定から入ってくるような偉い人がいると、本当に何も進まなくなるんです。最初のほうはそういう方を、あえて不参加にしてもらう。そしてワークショップを重ねてみんなが前向きになったあたりで、その人を投入する。するとワークショップが盛り上がっているので、だんだんその人も前向きになってくれるんです!
実際に僕がやったワークショップで、そういう部長さんがいまして。彼が最後に「なんだ、変わんなきゃいけないのは俺じゃん」と言ったことがありましたねえ。
澤村:すごい話ですね……。あとは、お題の作り方。
仲:いきなり「理想の働き方を考えましょう」なんて言い出しても、誰も乗り気になってくれないでしょう。だからまずは、会社のいいところと悪いところ、双方を議論してもらったりします。みんな乗り気になったところで、理想の働き方をしっかり考えるフェーズに入りますね。
澤村:なるほど、最初から本題に入らないんですね。
仲:本当に最初の方は、全然オープンマインドになっていないことが多いから。喋るのではなく、「スパゲッティ・キャンティレバー」のような単純な手作業の課題をみんなでやったりもします。とにかく頭を柔らかくするのが大切ですね。
※編集部注「スパゲッティ・キャンティレバー」
渡されたパスタ・糸・テープを使って、グループで横にのばす構造体(キャンティ)をつくるワーク。
どのチームが一番長くキャンティを出すことができるかを競い合う。
仲:そうそう、ある程度議論した後は、「お互いに理想的な一日を話して、他人にシナリオにしてもらう」というワークショップをやったことがあります。お母さんと一緒にごはんを食べて、仕事はこう進んで、その時の感情や空間の状況を入れて……という理想の働く日のシナリオを語るんです。
それを聞いた人が、他人のシナリオを書く。すると皆さん、情報を相手から引き出そうとする。お互いの理想の働き方を知ることができるんですね。
ここで重要なのが、「8時からメールチェックする」とかじゃなくて「どういう感情でオフィスでいたいか」を考えることです。イヤなことがあったけど、だれだれさんと喋ったら気分が晴れたとか。どういう働き方をしたいか、というのは、どういう感情で働きたいか、ということとイコールなのです。
澤村:面白そう。うちでもやってみたいです。
仲:ただワークショップは生き物なので、その場の空気に合わせる必要がある。それを忘れてはいけないなと思います。僕もいまだに試行錯誤していて、参加している人たちの顔を見ながら考えています。
そういう意味で、ファシリテーターの雰囲気作りも重要。空気をふわっと作ることのできるファシリテーターはいいワークショップを作るから。ただそんな人なかなかいないので(笑)、僕の場合は慣れてない学生にファシリテーターをやらせる。するとみんな「助けてあげなきゃ」と、自然にオープンな空気になる。
澤村:ああ、助けてあげようというムードがあるってすごくいいですね。
仲:自分の弱さを出していいんだよ、という雰囲気をつくることが重要なんです。塩梅が難しいですけど。空気を読みつつやる。前例にとらわれずに、いろんなことをやってみるのが一番大切だと思います。
澤村:うちでは「コミュニケーションが活発になるオフィスが理想的だよね」という話になっていますし、今後もっとそういうオフィスを今後作っていきたいんです。オフィスデザインを変えたことで、コミュニケーション量が増えた、という企業を増やしたい。
仲:ある時、オフィス作りに携わった役所の課長さんに、にこにこしながらこう言われたんです。仲先生のワークショップを通してフロアを改装したら、課の若い子から相談が来るようになったんだよ、と。喋る空気をつくるオフィスって、やっぱり大切ですよね。
澤村:僕たちも、今使っている「カウンター」というコーナーを作ったことで、コミュニケーションが少し変わったんです。
澤村:普通の机だと、座っている上司に話しかけるとき、部下は膝をついて喋りに来てしまうじゃないですか。でもこの「カウンター」だと、立ったまま喋ることができるんです。それって対等な関係性にすごく重要なことです。そのほかにも、二階にコーヒースポットを作ったりしたことで、気軽に他部署の人と話せるようになりました。
仲:僕が見た事例でも、大企業でコーヒースポットがコミュニケーション量を増大させた成功例がありました。もともと事業部ごとに完全に独立していて、お互い本当に他部署に興味がなさそうな雰囲気。でも社長さんが「他部署間のコミュニケーションをもっと作りたいんだ」とおっしゃったことがきっかけで生まれたのが、コーヒースポット。
みなさんコミュニケーションゾーンなんて作っても全然行かないけれど、毎朝コーヒーが無料で飲めるスポットには、行くんですよ。そして毎朝コーヒーを一緒に飲んでいると、だんだん心理的距離が近くなる。あの人毎朝見るな、とかね。空間や環境が少しずつ人を変えるいい例だなと思います。
澤村:コーヒーを淹れているのってちょっと時間がかかる、やっぱりコミュニケーションが生まれるんですよね。
仲:いろんな部署の人が集まる場所の滞在時間を長くする工夫。それがすごく大切だと思います。
そうそう、他の大企業メーカーで、自社製品のパン焼き機を使ってコミュニケーションゾーンでパンを焼いている事例もありました(笑) これは実際に調査をしたのですが、15時にパンを焼くとみんないい匂いにつられてコミュニケーションゾーンにやってくる。するとやっぱり人が集まるから、みんなでパンを食べながらコミュニケーションするんです。
で、休憩してまた仕事に戻る。そのうちみんなパン作りを協力して工夫するようになったりして、この文化は今も続いているらしいです。
澤村:うちみたいな小さな会社がコミュニケーションゾーンを大切にするのはなんとなくわかるのですが、大企業でも同じなのは驚きです。
仲:大企業こそ、定型化された仕事が多くて、部門ごとの責任分担もしっかりありますから。そこを壊すような新しいチャレンジを必要としているんです。
私の知人の大企業の重役の方が、「斜めのコミュニケーションこそが重要だ」と述べていました。上司と部下は縦の関係で、同期同士は横の関係ですよね。でも、実は他の部署同士の、立場の異なる人同士のコミュニケーションが必要なんだ、と。
世の中に対して価値を提供しようとするとき、やっぱり自分の知っている情報だけでやってしまうと、仕事のクオリティが上がっていかない。外に出て行くことも大切だし、社内の知らない人と話すことも大切。
澤村:ワークショップも社内のコミュニケーションを増やすきっかけになりますよね。
仲:もっと日本企業で、職種を超えた対話が生まれたほうがいいと僕は思っています。もちろんそのためには、他部署の勉強も必要ですが。社内の対話のためにワークショップを使う企業が増えるといいなと思っています。
澤村:僕らとしても、社風を作るオフィスをつくりたい、という気持ちが常にあります。そのために、そもそもどういうふうに働きたいか考えるワークショップを、もっと広げていきたい。
実は、オフィス作りで企業の生産性上げて、最終的には「滋賀県全体として生産性が上がった」という言われることが目標なんです。今後とも先生からご指導いただきながら、ワークショップを含めたオフィス事業を伸ばしていきたいです。
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オフィスというと、作業をしやすいために快適であればいい……と思いがちですが、むしろコミュニケーションをとりやすいことが仕事の生産性に繋がるのか、という点が目からうろこの対談でした!
この後、仲先生の主催されている「生きる場」のある琵琶湖のほとりに場所をうつして、ふたりの対話は続きます。
いま、地方で働くとはどういう意味があるのか?
今後の地方の中小企業は、どうあるべきか?
オフィスのみならず、未来の働き方を考えるふたりの対話。ぜひ最終回もお楽しみいただけると嬉しいです!
この記事を書いた人
三宅香帆 1994年生まれ。高知出身、京都在住。リクルート社勤務を経て2022年に独立、著書の執筆を中心に活動。 現代の働き方に関する興味から、本記事の執筆・編集に携わる。 |
Interview&Text:三宅香帆