ワークプレイスデザインの第一人者である仲隆介先生と、SAWAMURAの澤村社長の対談、とうとう最終回です。
第1、2回では、オフィス作りのためのワークショップや、オフィスに必要なものについて語り合いました。
今回は場所を変え、琵琶湖のほとりにある仲先生のシェアオフィス「生きる場」にお伺いしました。
なんと「生きる場」は琵琶湖の見える場所にあり、屋外で働くこともできるのです!
なぜ仲先生は、琵琶湖の見える屋外にオフィスを構えたのか?
そして地方で働くことの良さはどこにあるのか?
若い世代に、働く面白さをどう伝えたらいいのか?対談最終回も盛り上がりました!
目次
琵琶湖のほとりに、シェアオフィスを作った理由
オフィスに「会社以外の人」がいる未来がやってくる?
いま、中小企業ができること
どうやって若い世代に働く楽しさを伝えていくか?
澤村:仲先生が企画なさっている「生きる場プロジェクト」にもともと興味があったんです。琵琶湖のほとりにワークプレイスをつくるプロジェクト……と聞いていましたが、実際伺ってみると、屋外テラスに椅子や机を置いてる!と驚きました。 ミニキッチンや暖炉まであって、すごく素敵な空間で。仲先生がオフィスに琵琶湖のほとりを選んだのはなぜですか?
仲:僕は「遊びながら仕事をしたら生産性は上がるのか?」という問いについて実験してみたかったんです。そんな折、知人にたまたまここの民宿を紹介してもらえて。琵琶湖を眺めながら、外に机と椅子とホワイトボードを置いて仕事をすることに決めました。
澤村:実際やってみてどうですか。
仲:琵琶湖を眺めながらの仕事はモチベーション高くやれます!なんせ集中しやすいんです。たとえば今日はある補助金の企画書を書いたのですが、やっぱりそういう事務作業って疲れやすい。だけど、横にある琵琶湖のほうをパッと見ると……一瞬でリフレッシュできて、やる気がすぐ出てくる。いやあ、これはいいですよ。
仲:あと、ここに通っているうちに、民宿の大将と仲良くなったんです。するとこっちは仕事してるのに、薪を割らなきゃいけないから手伝ってくれ!とか頼まれるんですよ(笑)正直オフィスにいたら「そんな時間ねえよ、忙しいんだよ」「仕事やらなきゃいけないんだよ」と思うでしょう。
でも、不思議と、ここだとそう思わない。素直に「あ、いいよやるよ」と腰が上がる。それがすごく気持ちよかった。自分の仕事と、コミュニティの仕事が、ここに来ると混ざりあっているのがとても楽しい。
そう思ったことがきっかけで、民宿をリノベーションさせてもらい、琵琶湖のほとりにシェアオフィスをつくる「生きる場プロジェクト」を始めました。
澤村:外で仕事をするって、どんな感じなんでしょう?想像よりも吹きっさらしの場所で驚きました。
仲:あえて屋内という快適な環境を手放して、屋外で適温でない場所にちょっと耐えると、「薪ストーブってこんなにあったかいのか」「日が照ってきたときの太陽は最高だな」と感じつつ仕事ができるんです。するといつもより仕事のモチベーションも高まります。
気温も湿度も一定の場所にい続けるより、自然の変化というノイズがあるほうが、能力が発揮できるのではないか。それが僕の仮説です。僕はリモートワークならぬ、「外ワーク」を提唱したいんですよ。みんなもっと屋外に出るべき。天候や気温は、慣れますから。
澤村:たしかに最初は寒かったですが、ちょっと我慢すれば慣れるもんですね。11月の琵琶湖のほとりでも、太陽が照っていると心地よく感じられます。
仲:コロナ禍で流行した「ワーケーション」という言葉に、僕は違和感を持っているんです。遊びのついでに仕事をするようなニュアンスがあるでしょう。でも、僕が「生きる場プロジェクト」で実験したいのは、仕事のクオリティを上げるために屋外のオフィスが重要なんだ、ということ。仕事の優先順位が一番高いからこそ、外に出ることが大切なのです。
これは研究結果として発表したのですが、仕事の生産性にとって重要なのは、仕事する時間と仕事以外の行為を混ぜることなんです。つまり仕事だけに頭を硬直させると、全体的な生産性は下がっていく。仕事の合間に誰かと喋ったり、外に出たりするほうが、結果的にその日の仕事ははかどるんです。
いい仕事をするために、オフィスビルを出よう。みんなにそう言いたいですね!
澤村:今度会社の隣にコーヒー屋さんができるのですが、そこに図書館を作ろうか、と話しています。うちの社員ももちろん使うけれど、さらに「地域の人が通りがかってSAWAMURAの喫茶店を使ってくれないかなあ」と。コーヒー片手にみんなが本を読める空間をつくることで、会社に第三者――つまり地域の人がかかわるような場所を作りたいんです。
仲:すごく良いですね! 農家さんや漁師さんなど、普段関わらない職業の人たちと話せるような場になると、新しい発想が生まれそう。「いい発想とは、天才がゼロから生み出すものではなく、さまざまな異なるアイデアを組み合わせることで生まれる」と有名な経済学者が言っています。仕事はいかに他人のアイデアと接する機会を作れるか、が大切なんですよ。
だからこそSAWAMURAさんのように、田舎でさまざまな立場の人と関わる場を作った企業が今後どんどん成長していく気がします。一見効率が悪いけれど……たとえば近所の農家さんが遊びに来るオフィス、なんてのもいいかも。
澤村:SAWAMURAは高島に本社があるのですが、高島の地域の人とも積極的にかかわるようにしています。最近では「地方の企業は、もっと大きな可能性を秘めているのではないか?」と思うようになりました。仲先生の「生きる場プロジェクト」にしても、地方のほうが、地域の人とコミュニケーションを取れて、結果的にイノベーションに繋がるのではないかと。
仲:地方の多様性が価値を生む時代が来ますよ。もう、生活と仕事を切り分ける時代じゃない。オフィスは仕事の作業だけをする場ではなく、アイデアを思いつくための場でもあるんです。だからこそ、生活や自然と出会える場所にあるオフィスが強いんです。
仲:今、地方で働きたいという人が増えていますよね。オフィスのある地域が、オフィスだけに染まらず、仕事以外の価値観もちゃんとある空気。みんなそれを求めているんでしょう。
澤村:東京へ出張に行くと、本当にオフィス街にオフィスビルしかなくて驚きます。そういえば、たまに都会からSAWAMURAを受けに来る学生さんがいて。「高島という田舎になぜ?」と聞くと、「地域のまちづくりがしたいから」という声が返ってくるんです。地域の中にあることが強みになってきています。
仲:今後SAWAMURAさんのような会社が増えて、地方への就職がメジャーになってほしいなあ。どうしても今は地方移住がキャリアのリスクになってしまう人が多いですから、そこのハードルを下げてあげたいんです。地方に行った人が楽しそうにして、そういう人が増えていくと、その空気が日本中に伝染しますよ。
澤村:都会は「いいもの」にあふれていて、「いいもの」同士で価格競争をしているような状況がある。だけど地方にある「いいもの」は、まだその価値が知られていなかったりするんですよね。だからこそ、既にあるものをきちんとディレクションするだけで、価値が上がっていくと思うんです。地方で価値を創り出すことができる世界観をSAWAMURAで体現したい。
※SAWAMURAでは春と秋の年2回「SAWAMURAマルシェ」を開催しています
(実りの秋を楽しみ、地域とのつながりを感じる。「SAWAMURAマルシェ2022秋」開催レポート)
仲:地方だとそこまで競争も激しくないですし、いろいろやれそうなところが楽しいですよね。総合建設業の定義を広げるくらい、SAWAMURAさんにはいろんなことをやってほしいな。
澤村:「あそこは何屋なんだ?」と言われるくらい、何でも屋になりたいですね。なんでもやっているけれど、すごくガンガン伸びてくような。企業に余裕ができると、地域にも還元できますし。
仲:地域と一緒に成長するのが一番大切です。地域とのつながりを大切にして、ひとり勝ちではなく、地域みんなで成長していく。すると地域にもファンができて、また働きに来てくれるといういい循環ができます。地元でやってらっしゃるのはすごくいいなと思いますね。
澤村:「滋賀を代表するブランド企業になる」がうちの会社のビジョンなんです。滋賀県の会社、といわれて現状思いつくのは、やっぱりクラブハリエさんや平和堂さんだと思うのですが。
いつかはSAWAMURAさんでしょう、と言われるように、頑張っています。
澤村:先生はなぜオフィスの研究を始められたんですか?
仲:勤めていた建築事務所が倒産しちゃった時、就職氷河期で転職が難しくて、たまたま大学の先生が助手として雇ってくれたんです(笑) 先生がオフィスの研究をしていて、手伝った流れからですね。昔はひとりで研究していたけれど、ちょっとずつ日本全体でオフィスが注目されるようになった。いい時代になりました。
澤村:昔はなぜオフィスが重視されなかったのでしょう……?
仲:昔の日本企業は、生産性なんて考えていなかった。というか、人間を大切にしていなかったのです。せいぜい福利厚生を上げるくらいで、みんな役割分担した仕事をやってくれたらいいよという地点で終わっていた。でもちょっとずつ、いい人を採用できて、その人たちがやる気になってくれたら、会社の生産性は上がるよね、と言われ始めた。その流れで働く環境――オフィスが注目され始めました。
澤村:今って常に人手不足で、仕事はあるけど、人はいない。中小企業だと、本当にひとりのスーパーマンに10人20人がぶら下がることもある。だけどそういう状況を私は変えたいんです。地方で誰もが生産性を意識してきちんと強みを生かして働けるようなオフィスになれば、成長も作れるはずです。
仲:古い世代の人間は、どうしても一部の人が優秀だったらいいんだよ、と思いがち。でもそうじゃなくて、みんながやりがいをもって、いきいきと働いたほうがいい。今やっと日本もそう気づき始めたのでしょう。
仲:昭和型の管理命令タイプの上司がうまくいっていたのは、人口がたくさんいて役割分担が明確にできていた時代だったから。でも今はそういう時代じゃない。管理していると、社員のやる気を下げてしまう。その人の仕事の価値をちゃんと評価してあげる。仕事の意味を作ってあげる。それが上司の役割なんじゃないかな。
澤村:中小企業はなかなか、そういった時代の変化についていきづらい印象もあります。
仲:まさに今の時代、いちばん辛いのは、なんだかんだ昔のスタイルでうまくいってる中小企業ではないでしょうか。人口が減って、マーケットが小さくなっているという時代の変化に対し、危機感をあまり持っていない会社もあります。でもそういう方は、僕がこういう話をすると怒り出すんです。こんな頑張ってる日本をけなすなんて、と。
一方で今は、中小企業のほうが小回りもききますし、変革も早くできるという側面がある。時代に合わせて変化してうまくいく中小企業と、変化せずにうまくいかなくなる中小企業の、差は大きくなるでしょうね。
澤村:今は転職もしやすいし、良くも悪くも社員が「もうこんな仕事、やらなくてもいいや」と言いやすい時代です。だからこそモチベーションを作ってあげるのが大切だなと日々思ってますね。
仲:逃げやすい社会に、逃げずに頑張る方法を他人に教えるのはすごく難しい。僕も日々そこは痛感しています。若い世代にどうやって頑張ることを教えたらいいのだろう、と。いい仕事をしようすると、辛いとこは絶対あるんですよ。でも「ちょっとしんどいけれど、頑張ったからこれができたんだ」という成功体験があると、みんな頑張れる。
澤村:建設業の技術職でも、昔は10年我慢しろと言われていました。でも今は、3年で結果を出したい、いやもう数か月でまずは結果がほしい、という志向が若い世代に強くなってきている気がします。若い世代のアイデアを重視してあげること、彼らの熱意をどうやって汲み取るか。私にとっても課題ですね。
仲:最近はスポーツの世界でも「素振りばかりするのではなく、まず試合で実践、そして足りないところは基礎練で補う。そのほうが成長のスピードが速い」と言われているらしいですよ。仕事も同じですよね。じっくり訓練するよりも、一度背伸びをさせたほうが、成長できる。
澤村:ああ、それすごく分かる。ストレッチしなきゃいけない目標を与えると、頑張ろうと思うことに対してバネが強くなります。うちの会社も、若い世代には早く活躍してもらいたいので、マルシェ委員会や採用委員会など様々なプロジェクトチームに参加する機会を提供するようにしています。もちろんサポートは必要ですが。
仲:熟練すればするほど、たとえば「ここを押さえないと事故が起きるな」というタブーが頭に入るじゃないですか。でもそこにばかり縛られていると、発想が画一的になっちゃう。柔軟な発想で若い人に頑張ってもらって、熟練者がサポートするという仕組みは素晴らしいですね。バランスがいい。
澤村:たしかに僕自身、建築の仕事はほとんどせずに経営者になったのですが、むしろ建築の世界の常識がわからないからこそ「これおかしくない?」と言えた部分がありました。
仲:やっぱり勉強するより、実践する方が、速いんですよ。失敗しながら、その時必要なことを勉強するほうがよっぽど身につく。なにより、実践は楽しい! 勉強だけするより実践できたほうがいきいき仕事できるはずです。
澤村:今後もたくさん人が集まってくるような、楽しい仕事を作っていきたいです。そして楽しい仕事ができるようなオフィスを作っていきたい。うちの会社の事例が、ほかの会社にとってもプラスになるような会社にしていけたらな、と。
仲:僕、ワークライフバランスって言葉が嫌なんです。ワークもライフも、ライフの一部じゃないですか。なんでそんなに生活と仕事を分けるのか。仕事は辛いもので、ライフでバランスとらなきゃいけない、という発想こそが昭和ですよ。仕事は楽しくなくちゃ。それでこそ仕事のクオリティは上がるんです。
澤村:まさに先生は楽しい働き方で、仕事のクオリティを上げ続けていますよね。SAWAMURAもそんな会社になれるように頑張ります
仲:期待しています。今後も楽しく働いて、いっしょに滋賀を盛り上げていきましょう!
***
3回にわたって、仲先生と澤村社長の対談をお届けました。
オフィスについて考え続けてきたふたりの対話は、いつしか働き方や地方の未来についてまで……
濃厚な対話が繰り広げられ、とても楽しい時間でした!
仲先生、本当にありがとうございました!
この記事を書いた人
三宅香帆 1994年生まれ。高知出身、京都在住。リクルート社勤務を経て2022年に独立、著書の執筆を中心に活動。 現代の働き方に関する興味から、本記事の執筆・編集に携わる。 |
Interview&Text:三宅香帆