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2024.10.07
はたらくことに「ワクワクすること」が必要な理由 澤村社長×元パタゴニア、fascinate代表・但馬武さん 対談前編

SAWAMURA高島本社に、元パタゴニアの社員で、愛される企業を増やす活動を進めているfascinate代表の但馬武さんが来てくださいました。

但馬さんは、現在さまざまな企業のコンサルティング・アドバイザリーに取り組まれています。「愛される企業になるためにはどうしたら?」「リーダーに必要なことは?」等、ふたりが語り合った内容を、2回に分けてお伝えします。

第1回:はたらくことに「ワクワクすること」が必要な理由

第2回:愛される企業になるには、弱さをさらすこと 2024/10月末頃更新予定

 

目次

地方で愛される企業になるために
仕事の価値をつくる「言語化」のコツとは?
SAWAMURAの変化について元パタゴニアの但馬氏が思うこと
経営者のリーダーシップとは何か?

但馬武さん
パタゴニア日本支社にてダイレクトマーケティング部門統括を中心に19年勤務。2019年2月に熱狂的なファンを創り出していくfascinate株式会社を創業。「愛される企業 Lovable company」の創出のために企業理念から事業創出、マーケティング戦略構築などに年間10社ほどに伴走している。

 

地方で愛される企業になるために

但馬:今日高島に来て、素敵なところだなあ、とすごく思いました。御社は建築の会社ですよね。まちづくり、つまり「今後、滋賀をどうしていきたいか」という話はされますか?

澤村:社内にどこまで浸透できているかはわかりませんが、僕自身は10年後、滋賀が「採用に困らず、離職率が下がり、やりがい溢れる会社がたくさんある地域」と呼ばれるようになったらいいな、と思っています。そしてそう呼ばれるキーマンとなったのがSAWAMURAだね、と言われるようになりたい。今は地方というと採用に困っていると言われがちなので、そのイメージを変えていきたいです。

実は滋賀って、自然も多いし、すごく住みよい地域なんです。だけどどうしても京都や大阪のベッドタウンだと思われてしまう。本当は、滋賀に住んで滋賀で働くことのメリットもあるはずなんです。だからこそ滋賀で働く人が増えていったら面白いやろうな、と思っています。

但馬:すごくいいですね。ワクワクしますね! 海外だと、「この地域に住んでいる人は、こういう価値観を持っているよね」という共通認識を持てる都市があります。たとえばシリコンバレーといえばリベラルな人が住んでいてITに従事している人が多く、ポートランドといえばアクティビティやコミュニティを重視する人が多い。

そういう意味で、高島も、なにか価値観を表現するような地域になると面白いのかもしれません。地域のビジョンまで、SAWAMURAさんがつくることができるようになったら、とっても面白い未来がやってきそうですよね。

澤村:僕らも、「なにか都会のクリエイターも引き付けられるイベントを手掛けられないか」と思っていたところでした。高島市は京都にも近くて、城下町だったので文化的な景観もあるんです。だからこそクリエイターが集う地域にできるのでは、と。高島という場所への貢献は、SAWAMURAにとってひとつの大きな柱です。

但馬:まちづくりといえば、たとえば僕は6月にコペンハーゲンに行ってきました。デンマーク/コペンハーゲンは「自転車の街」と呼ばれているんです。自転車の交通量が圧倒的に多く、自転車専用の高速道路があったりする。面白いのが、Googleマップで検索すると、車より自転車のほうが圧倒的に早く到着する都市設計になってるんですよ!

車への税金も高いし、自転車用のロードも多い。最大標高91mのコペンハーゲンというまちにとっては、地球温暖化問題がとてもクリティカルだし、それ以上に「車より自転車が多い地域のほうが幸せだ」という価値観が共有されているんですね。自分たちがどうすれば楽しく生きられるのか、を検討した結果として、まちづくりがある。日本もそういった地域が増えると楽しいなあ。

将来、「高島にいる人はクリエイティブだって聞いたことがある」「高島出身なの?ちょっと採用させてよ」といわれるくらいになると面白いですよね。ある意味、クリエイティブになりたくてわざわざ高島に引っ越すみたいな人が出てくる風景。一例ではありますが、そんなふうに地域そのもののファンが生まれると、超幸せな感じがしますね。

仕事の価値をつくる「言語化」のコツとは?

澤村:そうですね。たとえば数年前に災害によって川が氾濫しそうになったとき、普段自分たちが土木事業で使用しているクレーン技術などがすごく役に立ったんです。そのとき、地域に貢献できるような事業っていいな、とすごく感じました。

澤村:SAWAMURAのビジョンに、土木事業をはじめとした部門をどうやって言語化して組み込んでいくか、今考えているところなんです。どうしても道路のような土台をつくる部門は、「華やかな設計部署に比べて、俺らは裏方や」と感じていそうな雰囲気があって……。そこを変えたいんです。みんながいて初めてSAWAMURAなので。

但馬:昔、僕が勤めていたパタゴニアでもやっぱり表に出やすいのは販売部門であり、どうしてもリペア修理部門は少し裏方のような雰囲気がありました。が、ちょっとした転換点がありました。

それは「修理って、普通どんどん新しいものを買わせようとする資本主義経済に対して、画期的で本質的なアクション」と、リペア部門の価値をリフレーミングしたこと。そしてその言語化を、社内にも社外にも共有するようにしました。「私たちのミッションは買うことだけではなく修理することによっても価値が生まれるんだ」と。

顧客のリペア利用が進み、またそれを促進するようにまちを訪問しリペアしてまわるようなトラックの活動を通じて、お客さんとコミュニケーションするイベントが開催されたり。要はイベント化することで、企業の顧客にもスタッフにもリペア部門の価値を共有したんです。そうやって意味づけをしたことで、社内での立ち位置も変わりましたし、なによりスタッフ自身の意識が変わったんです。

澤村:なるほど……! その部署が持つ意味を言語化できる取り組みが、とても効果的だったんですね。

但馬:何か大きなアクションでなくとも大事なのは、「自分の仕事がみんなと繋がり、そしてみんなが祝福してくれている」と感じる機会をつくることが、重要だと思います。会社だと分業化が進んで、その仕事の意味を実感する機会が減って、感じづらい。なによりそれによって自分自身がその自分自身を祝福できるようになる。

たとえば全社もしくは部門単位でワークショップを開催することから始めてもいいと思います。たとえば、ある部署が最近やった仕事を発表する。他部署の人は、それについて「この工夫がいいね」とか「ここはうちでヘルプできそう」とか、思ったことをポストイットなどに書いて貼っていく。そうすることで口頭でなくとも自分の仕事が誰の何につながり、自分の仕事のどこが誰に祝福されるのか、感じることができます。

澤村:言葉にするといっても、声に出すのではなく、書くという方法もあるんですね。シャイな人でもできそうで、いいですね!

但馬:そうなんです、日本人って恥ずかしがり屋なので、他部署の人を声に出して褒めるなんてなかなかできない(笑) でも書くことならハードルは下がります。僕はスタッフエンゲージメントを高めるために日本人に合わせた相互理解が進むような取り組みが重要だと思っています。

現場の人たちは何も考えていないわけではない。だけど言葉にする機会がなかなかない。だからこそ、「ポストイットを10枚書いてね」とか「感じたことをなにか書いてね」と言うとか、工夫をもって言葉を引き出すんです。

澤村:そういった工夫があれば、部門間の交流も進みそうです。


SAWAMURAの変化について元パタゴニアの但馬氏が思うこと

但馬:今日、御社のこれまでの歩みをお伺いしていて、「25歳で会社を引き継いでから、SAWAMURAらしい事業展開ができるようになるまで、10年間かかった」というお話がとくに素晴らしいなと感じました。会社のリブランディングができあがるまで、うまくいくか分からないまま10年間走り抜けたなんて、本当にすごいなと。

澤村:うわ、自社のリブランディング前の取り組みに触れていただくことなんてなかなかないので、お恥ずかしいのですが……ありがとうございます。

但馬:「将来どうなるかわからないけれども、それでも自分たちの企業らしい取り組みができるように、既存のビジネスモデルを少しずつ変えていこう、変えられるようにちゃんと準備してやってこう」と思って頑張る10年。これは並大抵のことではないです。僕はパタゴニアでの経験から、愛される企業をつくることに伴走するコンサルティングをしているのですが、結果が出るには時間がかかるもので、そのような取り組みに着実に取り組める会社ってやっぱりなかなか少ないのが現状です。

しかし、SAWAMURAさんは、以前は公共事業だけだったのが、現在はBtoB、BtoCの事業もできる企業になった。そのために準備の10年間が必要だったと理解しています。花開くために待った期間。それが素晴らしいな、と。

澤村:ありがとうございます。僕の場合、若い時に父が亡くなってしまって、想像よりはやい時期にSAWAMURAを継ぐことになって。施工会社としては従来と同様に受注仕事を引き受けていたら食べていけたんですが、それだけだと自分にとって「仕事していて楽しい」と思えるポイントがなかなか見つからなかった。

だからこそ、設計施工の会社にしたい、と舵を切ることができました。自分の「こっちのほうが楽しそうやな」という思いに従った結果です。

但馬:事業を大きく転換するときには「こっちのほうが確実に成功することが見えているから、始めよう」と安心して始めたいんですよ。でもビジネスに成功パターンなんてないんですよね。まるで暗闇の中を歩いていくようなものですから、だからこそ経営者のモチベーションがとても重要です。自分はこれがいいと思う、楽しいと思う、という気持ちがないと、取り組んでもなかなか結果が出ない事業の転換は乗り切れないんです。

必ず成功するビジネスなんてありませんから。そしてその経営者のモチベーションは何かそちらのほうが楽しそう、という直感のようなものを大事にすることなんです。

経営者のリーダーシップとは何か?

澤村:これまでは僕の直感がすべてでここまで来たようなものですが……周りに成功パターンがなかったのが逆に良かったのかもしれません。

やっぱり設計施工をやってみると、社内のワクワク度が全然違った。「今までやったことのないプロジェクトにゼロから関われる」こと自体が、めちゃくちゃ楽しかったんです。もちろん施工のみの事業と違って、設計まで引き受けるとなると、大変なんですよ。設計士は必要になるし、図面に無いから見積に入ってませんみたいな言い訳もできないし。だから最初の反発は大きかったです。それでも、僕は楽しいほうにいきたかった。積み上げていった先に、いま楽しい仕事がやれるところまで辿り着いて、本当に嬉しいですね。

大切なのは、それは値段ではない、ということ。例えば、公共事業の施工を10億や20億で入札する案件がとれると、もちろん安心する。企業として。でも安心のために仕事を取るって、最低限のことをしているわけであって、発展性はないんです。それに比べて、「この仕事をできたら、うちの会社はもっと成長できるな」「こんなことを実現できたら面白いな」と思えるような新しい仕事。そっちに向かいたかったんです。値段による安心ではなく、発展に賭ける。そして自分がワクワクできる仕事をしていると、人が集まってきてくれるんですよね。新しい出会いが生まれるので、それもあってここまで来れました。

但馬:ワクワクする、ってすごくいいですよね!僕はワークショップを開催するといつも「内なる好奇心を重視するのが大切」という話をするのですが、澤村さんはワクワクするという好奇心を見事に重視されていますね! それは何か原体験があったのでしょうか?

澤村:なんだろう……原体験というより、性格として、昔から「そこまでやらなくていいのに!」と言われることは多いんです。たとえば学生時代にバンドをしていてドラム担当だったのですが、もう当然、誰かのマネをするバンドではなく、一からオリジナル曲をつくるものだと思っていた。そしてドラムを当然プロに教わりにいって必死に練習してました。でもある日バンド仲間から、そこまでやらなくていいのに、そこまでやるつもりじゃなかったのに、と言われました……(笑)

まあバンドに限らず、やっぱり周りに合わせるよりも自分のやりたいことをやりたい、そこに我慢をしたくない、という性格なんですよ。

但馬:リーダーシップという言葉があるじゃないですか。僕はリーダーシップという言葉は誤解されていると思っているんです。というのもリーダーシップというと、他人を率いる能力のあるジャンヌ・ダルクのような人物像をイメージしてしまう。でも、本当はリードという単語は「境界線を越えて、一歩踏み出す」という言葉が語源なんですよね。

そもそもリーダーシップとは他人を率いるだけではなく、境界線を越える個人の動作のことを指していて、そのアクションに人が惹きつけられるのではないか、と僕は思っています。「この先どうすればいいかわからない、動き出すのも怖い」とみんなが感じる時にその場に留まるのではなく、踏み出すこと。その一歩を踏み出す人が、リーダーであると。そういう意味で、澤村さんは、本当の意味で踏み出すことができるリーダーなんですね。

澤村:いま教えていただいたリーダーシップを考えてみると、うちの場合は、タイミングも良かったなと感じてはいます。自分が会社を親父から継いだ時に、ちょうどリーマンショックが来てしまったんです。建設業もすごいダメージを負ってしまった。だからこそ新しいことをしないといけない、という僕の問題意識が社員に共有されやすかったですね。リーダーシップを発揮するタイミングが良かったからこそ、社員がついてきてくれました。


次回「愛される企業になるには、弱さをさらすこと」は2024/10月末頃更新予定です。お楽しみに!

 

この記事を書いた人

三宅香帆
1994年生まれ。高知出身、京都在住。リクルート社勤務を経て2022年に独立、著書の執筆を中心に活動。現代の働き方に関する興味から、本記事の執筆・編集に携わる。


Interview&Text:三宅香帆/Edit:SAWAMURA PRESS編集部

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